「熱中症警戒アラート」が連日のように発令される近年の日本の夏。毎年各地で連続真夏日の記録が更新されています。
そうした中で大規模地震などによる停電が起きると、エアコンが使えなくなるため、都市部を中心に熱中症リスクが跳ね上がり、生命身体の危機に直結します。また気候変動に伴う水や食料の不足も懸念されています。
「気候変動時代のフィールド選び」では、「エアコンがなくても生きられる場所」、そして「水や食料を得やすい場所」を条件として候補地を考えてみたいと思います。
高温対策① 「垂直移動↑」 「川沿い」&「裏山アリ」も〇
夏場もエアコンなしで暮らせるのはどんな土地でしょうか?
まず考えられるのが標高が高いエリア。一般的に標高が100メートル上がると気温はおよそ0.5度下がることが分かっています。
例えば標高30メートルほどの東京・新宿の気温が35度の猛暑日だった場合、標高約800メートルの山梨県北杜市の筆者の自宅の気温は単純計算でおよそ31度となり、4度ほど低くなります。31度というと、40年ほど前の東京の夏場の最高気温と同じくらいでしょうか。
二階建ての建物の一階部分や日陰にいれば、エアコンがなくても十分しのげる気温といえます。もちろん風通しの良し悪しや湿度、盆地のように熱がこもりやすい地形かどうか、紫外線の強さといった標高以外の要素でも体感温度は変わります。

「エアコンに頼らない暮らし」の実践に向けて考慮したい標高
標高以外の要素では、山間部や農村部は都市部と比べて夜間の気温が下がりやすい特徴があります。
都市部はコンクリート製の建物やアスファルト道路に大部分が覆われているため、街全体が蓄熱しやすく、エアコン室外機からの排熱も加わって夜中でも気温が下がりにくいためです。一方、森や雑木林、水田、畑などに囲まれた山間部や農村部は都心部よりも夜温が下がりやすく、熱帯夜になりにくい環境といえます。
さらに川沿いや沢沿いの土地、または農業用水路などが近くを流れている場所は、夜になると上流側から冷たい風が吹き降りてきて、日中の温かい空気を押し流すため、夜温が下がりやすい傾向があります。川に掛かる橋の上に立つと涼しさを感じるのと同じです。
水害対策など防災上の観点ではなるべく水から離れた場所が安心ですが、夏場の高温対策では川沿いに分があるといえそうです。

風通しが良く涼を得やすい川沿いの土地
また「家の裏手に山を背負っている」「裏山がある」といったロケーションも、夜になると山から冷気が降りてきて涼を得やすい環境といえます。ただ川沿いの土地と同じように、土砂崩れなどによる災害リスクへの考慮も必要です。
高温対策② 海沿いに住む
エアコンに頼らずに夏の熱波から逃れる方法として考えられるもう一つの方法が海辺に住むこと。例えば毎年夏になるとニュースで注目される千葉県勝浦市は、35度以上の猛暑日を観測史上、一度も記録したことがありません。勝浦沿岸は水深が深く、深い海の中の冷たい海水が風向きの影響などで海面付近に上がることで、陸地に吹き寄せる風を冷やしてくれると言われています。

涼しさをPRする勝浦市の移住促進事業(勝浦市移住・定住ポータルサイトより)
この「天然のクーラー」を利用して、勝浦市が取り組んでいるのが移住者誘致事業。市のホームページに東京都心との夏場の最高気温の比較を載せるなどして「エアコンなしでも涼しい街」をPRしています。
勝浦市以外でも海沿いのエリアでは海水によって冷やされた風が吹き込むことがあり、都心部などと比べて夏場の月平均最高気温が涼しいことが少なくありません。海沿いの低地では地震発生時の津波災害リスクも気になりますが、「なるべくエアコンに頼らずに夏を過ごしたい」と考える人には有力候補になりそうです。
水の確保① 水場探しの「嗅覚」を磨く
地球規模での水不足が懸念される気候変動時代では、異常気象や停電などで水道水の供給が止まった場合でも、最低限の生活用水を確保できる場所で暮らすのが大きな安心につながります。
私が暮らしている八ケ岳山麓の場合、標高1000メートル程度のエリアに何箇所か湧水があり、地元のひとが車で水を汲みに来ている光景が日常的に見られます。ただ東日本大震災で経験したように、大規模災害発生時はガソリン購入が難しくなり、車を使えなくなる可能性を考えると、徒歩や自転車で水を汲みに行ける場所を頭に入れておく必要があります。
例えば非常時の水汲み候補箇所として挙げられるのが、近所を流れている河川や小川、農業用水路など。また道路沿いのがけからちょろちょろと水が流れ出ている場所や、自然に水がしみ出したりしている沼地なども要チェックです。

断水時に活躍する「自然の水場」
そうした場所は季節の変化や降雨状況によって水の出方や水質に変化があるかどうかを普段からチェックしておきましょう。また車が使えない場合、徒歩や自転車などでアクセスできるかどうかもイメージしておきたいものです。
水の確保② 頼もしい手押し井戸 雨水利用も◎
一方、災害時などに頼もしい存在となるのが昔ながらの手押しポンプ付きの井戸。「防災井戸」として設置を進めている自治体もありますが、数は少ないのが実情です。
自分のフィールドに設置するのが理想ですが、難点はボーリング工事に多額の費用が掛かること。ボーリング工事では一般的に1メートル採掘するのに数万円掛かるといわれています。井戸水は50メートル以上など深い地層を通る地下水をくみ上げる「深井戸」ほど水質が良い半面、工事費用がかさみます。
そこで例えば飲用までの水質は求めず、風呂や洗濯、トイレ用などの日常用水に利用を限定した「浅井戸」で工事費を抑え、災害など万一のときには、その水を市販の浄水器などで濾過して飲用するといった工夫も考えられます。

都内の集合住宅に整備されている防災用の手押し井戸
北アルプスなどの山小屋では今でも主流となっている雨水利用も有効です。降り始めの雨水は大気中のほこりなどが混じりますが、ある程度降り続いた雨は不純物や汚れを含まないので安心して飲用できます。雨どいから集める雨水タンクはDIYでも作れるのでおすすめです。
前述した高原地帯の場合、夏場の気温が涼しいメリットはありますが、地面に降った雨は地下に浸透して伏流水として流れていることが多く、河川や沢などからの水の入手は一般的に難しいため、雨水利用の検討が重要になります。
狩猟採集 or 家庭菜園 ?
水に続いて大切になるのが食料の確保。縄文時代のような狩猟採集生活は、余程獲物が多い土地だったり、腕に自信があったりしなければ「労多く益少なし」の結果に終わることが考えられます。
狩猟採集による食料調達で有効と考えられる場面としては、防波堤や漁港などである程度コンスタントに地魚が釣れる場合や、一頭でまとまった量の肉が取れる二ホンジカやイノシシ猟を行う場合などが挙げられます。ただいずれも技術や経験、漁具や猟具が必要で、日頃からの実践が求められます。

釣りを含む狩猟採集は日頃からの実践が重要になる
そう考えると最も敷居が低く、安定して食料調達が可能なのが「家庭菜園」ではないでしょうか。ジャガイモ、サツマイモといったイモ類からは炭水化物、大豆や枝豆からはたんぱく質が取れます。夏場のトマトやキュウリといった果菜類、冬場のダイコンやニンジンといった根菜類も頼りになる食材で、いずれも漬物や乾燥野菜などに加工すれば保存が効きます。
普段から非常用の食料備蓄を心掛けるとともに、家庭菜園を作って半自給自足的な暮らしを楽しむことも食料確保の点では大きなリスク回避につながります。

安定した食料調達が期待できる家庭菜園
歴史的に見ても1991年の旧ソ連崩壊後、極端な食料不足に見舞われたロシア国民が生き残れたのは、「ダーチャ」と呼ばれる菜園付き別荘を郊外に所有する都市住民が多かったためと言われています。
キーワードは「温故知新」
こうして考えると、気候変動時代を生き抜くには、昭和30年代ころまで農村部で当たり前だった半自給自足の暮らしに軸足を移すことが最も有効なのかもしれません。これには薪や炭といった木質エネルギーの利用も含まれます。
一方、どこへでも移動できる自由度の高い生き方として関心が高まっている「バンライフ」は、ガソリン供給が止まり、道路も不通になった時点で持続できなくなる点で、災害時には脆弱なライフスタイルと言えそうです。
また八ケ岳山麓で増えつつある標高が高い森林エリアでの居住は、災害時の水の確保が難しく、気候や土質などの面で家庭菜園にはあまり適さないこと、またガソリン入手困難な場合に、「下界」と隔絶してしまうリスクを考慮すると、安心安全な居住環境とは言いにくい印象を受けます。
ある程度、水辺に近く、農作物を栽培しやすい環境の場所で、保存食を蓄えながら暮らす。また海沿いなら海の恵みを最大限生かして生活する。そんな一昔前の日本人の暮らし方こそが、気候変動時代を生き抜く大きなヒントになるのではないでしょうか。

フィールド選びを含めて再評価したい「温故知新」の暮らし方
こうしたサバイバル要素が含まれる暮らしでは、野菜づくりのほかにも釣りや狩猟採集といった個人のスキルも大きく問われます。ひとによっては無人島や山奥のフィールドこそが、最も安全安心、そして楽しく暮らせる場所になるかもしれません。
気候変動に加えて世界情勢も不安定要素に満ちた時代を安心安全に暮らすにはどうしたらよいか?
フィールド選びでも、そんな視点がこれから一層求められるかもしれません。