富士山の初冠雪が昨秋は観測史上最も遅く観測されるなど、四季を問わず気候変動の影響が顕著に現れている現在。
都市部を中心に年々厳しさを増す夏の酷暑から逃れるために、山間部や農村部への移住や二地域居住を考えるひとも増えています。また気候変動の影響による水や食料の不足に不安を抱き、田舎への移住を考える動きも出ています。今回は「気候変動時代のフィールド選び」を考察してみます。
様変わりする「高原」の気候
筆者が10年ほど暮らす山梨県の八ケ岳山麓は昭和40年代から高原の避暑地として開発が進み、別荘地利用が盛んになりました。中央道やJR中央線を使うと東京方面からのアクセスが良いため、大規模な管理別荘地が相次いで建設され、夏場の避暑利用が盛んです。
ただ近年は標高1000メートル前後のエリアでも夏場に33~35度程度の酷暑に見舞われる日が増えてきました。湿度も上がっていて、不快な蒸し暑さを感じる日も増え続けています。八ケ岳山麓でも標高が低いエリアでは25度以上の熱帯夜になることがあり、エアコンを設置する住宅がここ5年程の間に急速に増えました。筆者が携わる林業や造園業の現場仕事でも熱中症対策のため、ファン付きの空調服着用が必須になってきました。

ファン付き空調服を着用して行われる造林作業
冬の温暖化傾向も顕著です。八ケ岳からほど近い距離にある長野県の諏訪湖の冬の風物詩「御神渡り」も湖面が結氷しないため、まったく出現しなかったり、出現しても小規模ですぐに解けてしまったりする年がここ20年ほど続いています。
標高約760メートルの諏訪湖は内陸の盆地地形にあり、放射冷却で夜間や早朝の気温が下がりやすい地形にありますが、それでも近年は冬場も青々とした湖面が広がる光景が当たり前になってしまいました。冬場は分厚く結氷し、氷上でのワカサギ釣りやスケートで賑わった昭和40年代頃と比べると、近年はいかに気温が上がっているかが分かります。
ほかにもワイン用ブドウの産地として有名な山梨県の甲府盆地では夜温の上昇でブドウの品質低下が大きな問題となっていたり、八ケ岳山麓でも暖冬で二ホンジカの越冬が容易になり、それに伴ないマダニやヤマビルといった媒介生物が増えている可能性もあったりと、暮らしや生態系のさまざまな部分に気候変動の影響が出ています。
筆者自身の経験としても、以前勤務していた八ケ岳山麓の林業会社では毎年秋になると、防寒用の衣類や手袋などを購入する「防寒着手当て」の支給が恒例でした。しかし暖冬が続いているため、数年前にいつの間にか自然消滅してしまいました。

厳冬期も結氷しなくなった諏訪湖
「少しでも涼しい場所へ…」
八ケ岳山麓ではこうした急激なペースの温暖化の進行で、かつては冬の寒さが厳し過ぎるため、定住には適さないとされていた標高1200~1400メートル程度のエリアに住むひとも増えてきました。
そうしたエリアは従来、夏の別荘利用が中心でしたが、温暖化の進行で「夏場はエアコンを付けなくてもギリギリ暑さをしのげるエリア」、冬場は「ちょっと寒いけど普通に暮らせるエリア」に変わってしまった印象です。
この結果、「夏の熱波からの退避」を目的に、首都圏地域をはじめとする都市部からの移住者や二地域居住者が年々増えていると感じます。

標高が高いエリアに移りつつある移住者の居住地(八ケ岳高原海の口自然郷)
「半自給自足」「半農半X」へライフシフト
日本中、そして世界中の気候が急速に変化し、熱波や集中豪雨といった大規模災害が頻発する中、「安心して暮らせる土地はどこ?」という素朴な疑問を抱くひとが増えています。
ソロキャンプや車中泊への関心の高まりも、災害などの非常時に求められるサバイバル技術と重なる部分が多いことと無関係ではなさそうです。実際に「防災キャンプ」と銘打ったキャンプ講座も各地で開かれています。

実践者が増えているソロキャンプ
そうした流れと関連して「自給自足」や「半農半X」、「狩猟採集」といったライフスタイルと直結するキーワードの実践者も増えています。米作りや自然農法などを協力して行うコミュニティも各地で生まれていて、そうした潮流は、気候変動をはじめとする不確定要素満載の世界を生きる現代人の通奏低音にも感じます。
次回の「気候変動時代のフィールド選び 後編」では、水や食料の確保、熱波からの退避など、具体的な課題をイメージしながら、少しでも安心して暮らせる移住先や二地域居住先をどう見つけるかを考えます。