前回のコラムで紹介したチェーンソーは、使いこなせばフィールド整備のさまざまな場面で力強い味方になってくれます。
しかしチェーンソーは、むき出しの状態の刃(ソーチェーン)を腕や脚、顔面の近くで高速回転させながら使う道具。
正しい使い方を習得するとともに、専用の安全装備を身に付けて使うことが事故防止に向けて大切になります。
まずは脚を守る!
チェーンソーによる事故で多いのが下半身のケガ。
丸太の玉切りや枝払いといった作業をしているときに、誤って自分自身の太ももなどに回転中の刃を当ててしまうケースが少なくありません。
特に初心者でチェーンソーの重さに身体が慣れていなかったり、疲れて集中力が落ちたりしているときは要注意。
このためチェーンソーを扱うときには、専用の防護素材で作られたズボンや前掛け形のチャプスを身に付けることが基本です。
特にチェーンソーを業務で使う場合は、防護ズボンやチャプスの着用が義務化されています。
チェーンソー用の防護ズボンやチャプスは、高速回転しているソーチェーンが太ももの部分などに触れて生地が破けると、内側に充填されている特殊な繊維が瞬間的に飛び出し、ソーチェーンに絡みつくことで回転を止めるつくりが特徴です。
防護ズボンとチャプスともに、スチールやハスクバーナといったチェーンソーメーカーが発売している製品が代表的ですが、近年は国内メーカーのモデルも増えています。
製品には「クラス1」「クラス2」などと切断防止性能が表示されており、数字が大きいほど性能が高くなります。
クラス1はソーチェーンの回転速度が毎秒20メートル以下まで対応できるタイプで、多くの防護ズボンやチャプスに、このクラスが採用されています。

チェーンソー作業用の防護ズボン
ズボンかチャプスか?
防護ズボンは生地の前面部分に特殊繊維が充填されている構造上、どうしても分厚くて重たいつくりになります。
冬場は暖かくて快適ですが、夏場はまるで毛布を履いているように太もも部分が蒸し暑くなり、熱中症のリスクも高まります。
一方、前掛け形のチャプスは夏場などに着脱しやすいメリットはありますが、防護ズボンと比べるとフィット感が劣り、やぶが濃い場所などでは枝に引っかかって歩きにくいといったデメリットがあります。
防護ズボン、チャプスともにフリマサイトなどで1万円程度の価格から購入できるため、着用シーンに合わせて選ぶのがおすすめです。
ただ欧州ブランドの製品は股上や股下のサイズ感などが国産モデルと大きく異なる場合があるので、できれば実際に着用してから購入すると安心です。

前掛け形のチャプス
頭部を守るヘルメット
防護ズボンやチャプスと同様に、必ず身に着けたい装備がチェーンソー用の防護ヘルメット。
飛散した木くずなどが顔面に当たるのを防ぐバイザーと、防音用のイヤマフが取り付けられています。
バイザーには樹脂製や金属製のメッシュタイプと、ポリカーボネートなどの透明樹脂製があります。
透明樹脂製のものは表面に傷や汚れが付くと視界が悪くなりやすいため、個人的には樹脂製や金属製のメッシュタイプを愛用しています。
防護ズボンやチャプスと同様、さまざまなメーカーが製品を発売しており、ネットでも手軽に購入できます。

チェーンソー作業用のヘルメット 左はイヤマフなしの簡易タイプ
指先や手のひらを守る手袋
チェーンソー作業向けには、手のひらや指先部分にパッドが内蔵された「防振手袋」が販売されています。
チェーンソーの長時間使用に伴う振動障害を防ぐ目的で作られており、材質や厚みなどさまざまなタイプが市販されています。
ただ最近のチェーンソーは防振性能が高まり、手のひらや指先部分に伝わる振動が大きく軽減しています。
このため一般的な作業用手袋を使う林業者も多くいます。
チェーンソーは慣れないとチェーンソー自体の重さに身体が負けてしまい、ガイドバーの先端が下がってしまったり、体勢を崩してしまったりして、正確なカッティングができないほか、思わぬ事故につながることもあります。
このため手のひらと指先部分がゴム引きで、グリップ性に優れた作業用手袋を使うと、握力や腕の筋肉が少ない人でも扱いやすく感じることがあります。
手袋は同じサイズ表記でもメーカーごとに指先の長さなどが異なるため、自分にぴったりの手袋に出会うのはなかなか難しいもの。
消耗品なのでフィット感やグリップ性、耐久性、価格などのバランスに優れたお気に入りの手袋を見つけると「もう手袋選びで悩まなくても済む」とホッとします。

刈払機を使う作業にも向く防振手袋

指先感覚やグリップ性に優れ、様々な用途で使える作業用手袋
万能選手のトレッキングブーツ
防護ズボンやヘルメットを始めとするチェーンソー作業用の安全装備は、主に林業先進国の欧州で開発が進み、ここ10年ほどで日本でも普及してきました。
足回りに関しては、日本の林業現場ではソール部分にスパイクが付いた足袋が主流でしたが、ここ数年、欧州で主流の「チェーンソーブーツ」と呼ばれる防護ブーツが急速に普及してきました。
チェーンソーブーツは防護ズボンやチャプスと同様に、足首部分などにソーチェーンに対する防護素材が使われています。
さらにつま先部分には、安全靴と同じように金属製のカップが内蔵されていて、丸太などが足元に落下した場合につま先部分を保護するつくり
になっています。
皮製が主流で、見た目も履き心地も「雪山用のイカツイ登山靴」にそっくり。
しかし履きなれて足に馴染んでくるとフィット感が増し、文字通り「タフな相棒」になってくれます。
ゴアテックスなどの防水透湿素材を使っている製品が多いため、水濡れに強いのも特徴。
登山靴のようにハイカットのモデルが多いため、雨の日に長靴代わりにも使うこともできます。

履き込んで自分の足の形になじんだチェーンソーブーツ
ただ本格的なチェーンソーブーツは2~3万円程度とそれなりの価格で、欧州ブランドの高品質モデルだと5万円以上してしまいます。
「かっこいいけれど、週末チェーンソーワーカーには、ちょっと手が届きにくい…」。
そんなひとにおすすめなのが、信頼できるメーカーの防水透湿素材を使った登山靴やトレッキング用ブーツ。
防護素材は入っていませんが、登山用のため比較的丈夫で防水性も高く、いろいろなフィールドで足元に安心感を与えてくれるはずです。
近年の登山ブームを受けて、フリマサイトやリユースショップでも手ごろな価格帯の中古品が販売されていることが多いのもうれしいポイントです。
私自身も普段のチェーンソー作業では、中古で購入したトレッキングシューズを愛用しています。

さまざまな作業で使いやすいトレッキングシューズ
ゴアテックスなどの防水透湿素材を使ったモデルは一定の保温性もある
集中力を高める意味合いも
一昔前まで林業の世界では、防護ズボンやチャプスを履いているひとは少数派で、一般の作業用ズボンを履いてチェーンソーを使っているひとがほとんどでした。
へルメットも工事用のいわゆる「ドカヘル」が主流。足回りも足袋や脚半という「ジャパニーズスタイル」が一般的でした。
多くのベテランがそうした軽装で活躍してきましたが、「誤ってチェーンソーの刃が太ももに当たって大ケガをした」などという事故が多かったのも事実。
労災事故の発生率が他産業よりも突出して高い林業現場で近年、防護装備の導入が進められてきたのは当然の流れといえます。
防護ズボンや専用ヘルメットは身を護るツールであると同時に、そうした装備を身に付けることで「危険作業に臨む」という意識に気持ちが切り替わり、作業への集中力が高まる効果もあると感じています。
しかし、いかに高価で高性能な防護装備を身に付けていても、事故防止のために最も重要なのは、チェーンソーを使いこなすためのしっかりとした技術や経験。
チェーンソー用の防護装備は「身を守るために最低限、必要なツール」だと考えたほうがよいでしょう。
気分が上がるお気に入りの装備を身に付ければ、楽しく、そして安全にフィールド整備ができるかもしれません。

きちんとした安全装備を身に付けて「危険作業モード」に気持ちを切り替えたい