雨が多い梅雨の時期。
野山の土はたっぷりと水分を含み、草木の緑も一段と青さを増し、動植物たちの生命力を最も強く感じられる季節となります。
山の中の渓流では水量が安定するとともに水温が上がり、水中の魚たちの活性も高まります。
今回は「山国」と呼ばれる日本各地に流れる渓流で出会える魚たちと、その釣り方を取り上げます。
フィールドは全国に
毎年、春前になると釣り雑誌には「全国の渓流釣り場解禁情報」が掲載されます。
これを見ると北海道から九州まで、全国には実にたくさんの渓流釣りのフィールドがあることを実感させてくれます。
物件探しなどに出掛ける場合、目的地の近くにどんな川が流れていて、どんな魚が釣れるか?
そんな情報も集めてみると、土地探しのプロセスに新しい楽しみが加わりそうです。
一見すると自然のままに流れている渓流ですが、国内の多くの河川では地元の漁業組合が稚魚の放流などを行っていて、生息数を維持するために魚種ごとに「遊漁期間(釣っても良い期間)」を設けています。
ヤマメやアマゴ、イワナといった渓流魚の場合、遊漁期間は多くの河川で3月から9月までの七カ月間です。
さらに釣りをする場合は、ほとんどの河川で地元漁協が発行する「遊漁券」の購入が必要です。
渓流魚の場合、遊漁券の価格は1日券で1000円前後、シーズンを通して利用できる「年券」は5000円前後に設定されているケースが多いようです。
遊漁券を販売するコンビニも近年増えており、早朝や夜間でも購入しやすくなりました。
また「体長15センチ以下は放流」など、釣った後に持ち帰っても良いサイズが魚種ごとに決まっている場合が多いので注意が必要です。

「山国」の日本は、各地に美しい渓流を擁している
渓流の宝石
国内で渓流釣りの対象となるヤマメやアマゴ、イワナといった魚は、海外では「トラウト」と呼ばれるサケ科の淡水魚。
清れつな水の中で暮らすのに相応しい、美しい魚体を持ち、釣り人を魅了します。
特にヤマメとアマゴは魚体の側面に「パーマーク」と呼ばれる斑紋があり、「渓流の宝石」と称されることも。
ただ警戒心が非常に強く、特に大きいサイズになるほど釣るのが難しくなります。
それだけに、手にしたときの感動と喜びは一生忘れられないもの。
筆者自身、中学生時代に初めて大きなヤマメを釣ったときの思い出は、30年後の今でもはっきりと憶えています。
ヤマメとアマゴは近縁で、ヤマメは日本海側と千葉県以北の太平洋側、アマゴは中部地方から西の本州太平洋側、九州の一部、四国などに分布するとされています。
近年は各地で養殖された稚魚が放流されているため、ヤマメとアマゴが交雑したり、本来はヤマメの生息域でアマゴが釣れたりといった現象もみられるようになりました。
イワナはヤマメやアマゴよりも山奥の渓流に生息しますが、近年は放流などで混生する河川も増えています。
いずれも食味が良く、塩焼きやムニエル、唐揚げ、骨酒などさまざまな料理に活用できます。

長野県内で釣れたアマゴ。ヤマメと似ているが魚体の側面に朱点があるのが特徴
基本のえさ釣り
「渓流の宝石」たちに出会うために、最も始めやすいのがえさ釣り。
竿の先に針と重りと目印を付けた釣り糸を結び、魚がいそうなポイントに投げ入れ、川の流れに合わせてえさを流しながらアタリを待つ「ミャク釣り」が渓流では一般的です。
竿は川幅に応じて使い分けますが、4.5~5.3メートルの長さが使いやすいでしょう。
えさ釣りは初心者向きですが、釣具屋さんの店頭には何種類もの竿や糸、針、おもりが並び、初めての場合は迷ってしまいます。
そんなときに頼りになるのが店員さんの存在。
釣具屋の店員さんの多くが大の釣り好きで、釣り方などを教えるのが好きなひとが多いので、釣り糸の結び方などを含めて分からないことは根掘り葉掘り聞いてみましょう。
ミャク釣りは釣り糸と釣り針、重り、目印をセットで買っても1500円前後で仕掛けを揃えられる手軽さも魅力。
釣り竿は軽量なカーボン製が使いやすく、最近では大手フリマサイトでも手頃な価格帯のものが数多く出品されているので、チェックしてみてもよいでしょう。
えさはミミズやイクラ、ブドウ虫などが釣具屋さんで販売されていますが、川の中の石に張り付いている「川虫」を使うと良く釣れます。
ヒラタカゲロウなどの幼虫の通称「ヒラタ」、カワゲラの幼虫の通称「オニチョロ」、ヒゲナガカワトビケラの幼虫の「クロカワムシ」などです。
浅瀬の部分などにある滑らかで大きめの石を持ち上げてひっくり返すと、こうした川虫が石の表面に付いているはずです。
石を水中で動かし、下流に置いた目の細かい網でキャッチする採り方もあります。
たとえ釣果がなくても、子どもと一緒にこうした川虫を採って観察してみても面白いでしょう。

ミャク釣りで使う釣り糸や釣り針、重り

釣りえさとなる川虫(矢印部分)。川底の石と同化している
中上級者向けのルアー釣りと毛バリ釣り
初心者でも比較的チャレンジしやすいえさ釣りと比べて、疑似餌を使うルアー釣りや毛バリ釣りは、やや難易度が上がります。
ただその分、釣れたときの喜びもひとしお。
釣り竿やリール、また自分で毛バリを巻くための用具など、さまざまな道具をそろえていく楽しみもあります。
また事前に釣りえさを用意する必要がないため、時間がないときでも道具さえあれば、すぐに釣りを始められるのも強み。
車に釣り竿を積んでおけば、旅先などで釣れそうな川を見つけたら試しに竿を振ってみることもできます。
ミミズなどの生きえさに触れるのが苦手なひとにも向いています。
ルアー釣りと毛バリ釣りでは疑似餌を含めて使用する道具が違います。
また毛バリ釣りには欧米発祥の「フライフィッシング」と、和式毛バリ釣りとも呼ばれる「テンカラ釣り」の二種類があります。
テンカラ釣りは渓流魚を獲ることを生活の糧にしていた職漁師などが伝承してきた釣り方で、リールを使わずに釣り竿一本で楽しめるシンプルさが魅力です。

渓流用のルアー(左)とテンカラ用の毛バリ(右)
「雑魚」も美味しい◎
警戒心が強いヤマメやアマゴ、イワナと比べて、コイ科に属するハヤやウグイは生息数が多く、それほど神経質ではないため、初心者や子供でも釣りやすいのが特徴。
里川や清流域と呼ばれる集落や市街地近くの川では、ヤマメやアマゴと混生していることが多く、特にヤマメやアマゴを狙ってミャク釣りをしているとウグイやハヤが入れ食いになることもあります。
しかし釣りの世界ではヤマメやアマゴ、イワナと比べるとウグイやハヤは格下の位置付け。
「外道」や「餌泥棒」などと呼ばれ、釣れてもすぐに川の中に逃がしてしまうひとがほとんどです。
しかしせっかく釣れたのなら食材として活用してみるのがおすすめ。
大きければ塩焼き、小さければ唐揚げにすると意外とおいしく、何よりも自分で釣った魚を食べるという楽しみは代えがたいものがあります。

「雑魚」の仲間のオイカワ。遠火でじっくり焼き上げるとおいしい
川遊びの楽しみと危険
釣りをしていると川の中で暮らす生き物たちの生態や生活排水の流入に伴う水の汚れ、大雨による増水の影響など、自然や人間の暮らしに関するさまざまなことが見えてきます。
水辺を好むセリやクレソンといった山菜に出会えることもあるなど、たくさんの発見があります。
一方、水辺や河原の草むらなどには、毒ヘビのマムシや病原ウイルスを保有している可能性があるマダニといった注意が必要な生き物も暮らしており、半そでや半ズボンといった軽装で川に近付くのは危険な場合もあります。
大雨やダムからの放流による急な増水にも注意が必要です。

病原ウイルスを保有している可能性があるマダニ
また狭い谷底や山の中を流れている渓流の場合、川辺に降り立つ場所がなかなか見つからないケースも珍しくありません。
地元の釣具屋さんに立ち寄った際、「どの川のどの辺りの場所が初めてでも釣りやすいか?」「最近の川の水量や釣れ具合はどうか?」といった情報も併せて仕入れるのがおすすめです。
また他の釣り人に出会ったら積極的に話しかけてみると、ポイントや釣れ具合といったさまざまな情報を教えてくれるかもしれません。
渓流魚がすむ川の近くに山林などの遊休地を所有している場合、土地を販売する上での訴求点になる可能性もあります。
釣り場に近い場所に別荘やプライベートのキャンプエリアを持つことは多くの釣り好きにとっての憧れ。
コロナ渦も背景としたアウトドアブームで釣りの人気も高まっています。
土地所有者の方は、そうした背景も踏まえて、あらためて自分の土地のロケーションや訴求点を見直してみるのも良いかもしれません。